山は日常の息苦しさや、スマホやSNSの過度な「つながり」から完全に遮断される「最強の非日常デトックス空間」と言っても過言ではない。
山に一歩足を踏み入れれば、我々は普段いかにうるさい環境の中に生き、手狭な文明社会の中でがんじがらめに縛られているかを痛感させられる。登山を始めることで、人生観すら大きく変える人もいるほどだ。
だがそんな登山を始めたいけれど、どこから手をつけていいかわからず足踏みしている初心者の方も多いのではないだろうか。
そこで「300人のホンネ」編集部では、登山を趣味とする男女73名にアンケート調査を行うことにした。
本調査での各調査結果はこうだ。
▼本調査の結論
必須の登山アイテム | リュックサック
登山靴 |
山選びのポイント | 1、登山ルートの難易度が低いこと
2、登山者が多いこと 3、ロープウェイがあること |
山の楽しみ方 | 山頂・下山時の食べ物にこだわる |
登山初心者でも持っておくべき登山アイテム
まずは登山初心者が真っ先に気になるところと言えば、「どういう登山アイテムをそろえればいいのか?」ではないだろうか。
アウトドア用品店に足を運ぶと魅力的な数々の登山アイテムがあり、あれもこれもとつい目移りしてしまうものだが、もちろんすべてをそろえる必要はない。
そこで登山を趣味とする先人たちに「登山初心者でもこれだけは持っておけ」というアイテムを聞いた。
まず80%以上の人が必要と答えた必須アイテムは、「リュックサック」(95.6%)と「登山靴」(84.9%)のふたつだ。
「リュックサック」は、登山向けのものでなくとも両肩で背負えるものなら代用できる。
なぜわざわざ「リュックサック」が必要なのかというと、もっとも大きな理由は「水」と「食料」を運ぶためと言っても過言ではない。
観光化された山だと山頂に行けば飲食店がある山もあるが、基本的に山頂までの道中には水がないし、もちろん自動販売機やコンビニなんてものもない。
ハイキングといえばゆるく感じるかもしれないが、実際のところ運動強度はジョギングと同じ(6~7METS)である。
それを3~5時間程度続けるのだから、運動量としては1,500~2,500kcalを消費することになる(体重70kgの男性の場合)。
そのため道中の水分補給や栄養補給はマストになるが、その水や食料を運ぶのに手提げのバッグでは道半ばで帰りたくなってしまうだろう。
また山にゴミ捨て場はないので、ゴミは必ず自宅まで持ち帰ることも忘れてはいけない。
一方で「登山靴」は、初心者からそろえておくべきアイテムだ。
これにも極めて実用的な理由があり、登山道と言えど、角度がきつい坂道や滑りやすい木の根や岩もあるし、沢を渡らなければいけない箇所などが必ずある。
市販のスニーカーでは、地面をとらえるグリップ力がまったく足りないし、水濡れ耐性も低い。
なにより下山したころにはドロドロになっていて、いちいち洗わないと使い物にならないほど汚れがつく。
登山靴の価格はピンキリだが、そもそも登山はお金のかかる趣味ではない。
まして1足買っておけば何年も使えるのだから、登山靴の品質にこだわり、安くとも1万円前後の登山靴を用意するのがおすすめだ。
「もしすぐに登山に飽きてしまったら、もったいない」と心配になるかもしれないが、そんな心配は無用だ。
というのも一度でも山の魅力に触れてしまったら、再び山に帰ってくることになるからだ。
このことについては最後の章で触れたい。
またほかには、レインウェア(76.7%)、非常食(71.2%)、応急手当グッズ(68.5%)、地図・コンパス(58.9%)は、山に入るうえでの最低限のマナーと言えるかもしれない。
というのも、登山にはトラブルがつきものだからだ。
登山時のトラブル遭遇率
ここまで読んでいて、「近場の山を登るだけなんだから、登山アイテムなんて大げさだ」と感じた方もいるかもしれない。
そこで今回調査した登山を趣味とする先人たちが、山で実際にどのようなトラブルに見舞われたことがあるのか見てみることにしよう。
登山中のトラブルに見舞われたことが「まったくない」と回答したのは、わずか24.7%であり、4人に3人がなんらかのトラブルを経験していることになる。
そうしたトラブルの中でも多かったのが「短時間の道迷い」(41.1%)、「ねんざなどの軽いけが」(41.1%)だった。
道迷いというのは、なにも登山道からわざと外れるような無茶をした結果起こるものではない。
山の環境はたえず変化しており、倒木や土砂崩れで登山道がなくなったりすることもあるし、林業関係者がつけた目印で登山道以外のルートに迷い込んでしまうこともある。
もちろん仮に道迷いをしても、自身が来た道を引き返せばルートには戻る。
だが自身が登山道上にいるのか、ルートから外れているのかも定かでない状況なのだから、進むか戻るかの判断も難しいのが現実だ。
迷ったら戻るという気概で、道迷いには最大限の注意を払っておいて損はない。
一方で、初心者にとって地図とコンパスだけで現在地を知るというのはなかなかハードルが高い。
そこで活用したいのが登山用GPSアプリだ。
▼登山用GPSアプリ【ジオグラフィカ】(無料)
街中だとGoogleMAPのアプリがあれば困ることはないが、山中では別だ。
この【ジオグラフィカ】は等高線も出るし、なによりインターネット回線のあるところで地図の拡大・縮小を事前にしておけば、電波が届かないところでも詳細な登山ルートが表示される。
ただしGPSを拾っているのでインターネット回線がなくても機能するが、木々が生い茂っているところだと矢印の向きが正確ではないときがある。
そうした時は、空が開けている場所に出てこのアプリを起動すれば、現在地や登山ルートを確認することができる。
登山初心者は必ずスマホに入れておきたいアプリだ。
また「ねんざなどの軽いけが」(41.1%)も、あなどれないトラブルだ。
仮に市街地でねんざをしても命の危険を感じることはないが、山中では別だ。
というのも筆者の場合だと、近場の登山から帰ってきてスマホの歩数計を見ると、おおむね25~30kmを歩いていることが多い。
ねんざした足を引きずりながらこの距離を歩くと考えると、そのヤバさが想像できるのではないだろうか。
このように山ではトラブルに遭うことを前提で考えておかなければ、実際にトラブルに見舞われたときパニックになってしまう。
応急処置グッズや非常食は必ず携行するようにしよう。
登山初心者におすすめの山
ここまでで登山にもっていくべきアイテムは確認できた。
では次に登山初心者は「どの山を攻めればいいのか?」という問題に移っていこう。
まず全国の回答者から初心者におすすめできる山を教えてもらった結果が下表だ。
▼初心者におすすめの山10選
所在地 | 標高 | ロープウェイ | |
---|---|---|---|
高尾山 | 東京都 | 599m | 〇 |
筑波山 | 茨城県 | 877m | 〇 |
六甲山 | 兵庫県 | 931m | 〇 |
富士山 | 山梨県、静岡県 | 3776m | × |
金華山 | 岐阜県 | 329m | 〇 |
乗鞍岳 | 長野県、岐阜県 | 3026m | × |
金剛山 | 奈良県、大阪府 | 1125m | × |
伊吹山 | 滋賀県 | 1337m | × |
藻岩山 | 北海道 | 531m | 〇 |
大山 | 鳥取県 | 1729m | × |
東京にお住いの方にとって「高尾山」は鉄板の山と言えるが、初登山が「富士山(五合目から)」とういうのも面白い。
ただし全国から集まった回答よりも、自身の近場の山で考えたい登山初心者の方も多いだろう。
そこで初心者向けの山選びのコツを抽出することにした。
初心者におすすめの山の選び方
今回の回答者におすすめの山を挙げた理由を聞くと、おおむね次の3点に要約できる。
初心者の山選びのポイント
1、登山ルートの難易度が低いこと
2、登山者が多いこと
3、ロープウェイがあること
以下、それぞれの項目を見ていこう。
【ポイント1】登山ルートの難易度が低いこと
登山にはルート(コース)選択という重要なプロセスがあり、同じ山でもルートを変えれば初心者向けにも上級者向けにもなる。
あまりピンとこないかもしれないが、富士山を五合目まで車で行って登るのと、麓から登るのとでは難易度がまるで違うと言えば、想像つくのではないだろうか。
同様に登山ルートも、急斜面にとりついてよじ登っていくようなルートもあれば、比較的なだらかな坂道を登り続けられるルートもある。
では初心者が避けるべきルートは、このような地形があるルートだ。
▼初心者が避けるべきルート
雪渓 | 夏まで雪が残っている斜面。アイゼン(靴裏につける歯形の滑り止め)が必要。 |
ヤセ尾根 | 両側が急斜面の幅の狭い尾根。滑落すると大事故に。 |
岩場・鎖場 | 岩をよじ登って進むところ。補助用の鎖がつけてある場合もあるが、鎖をつけなければならないほど危ない箇所でもある。 |
この中でも多くの山にある難所が岩場だ。
▼岩場の例
岩場は歩いて登るというより、岩にしがみついてよじ登っていくと言ったほうが体感的に近い。
こういう岩場が続くルートを慣れないうちに選ぶと、途中で怖いと思っても引き返して降りるのはもっと怖いので、とてつもなく後悔することになる。
山の名前でインターネット検索をすると、ルートを解説したブログ記事などが見つかるので、必ず事前に調べておくべきだ。
また各地方自治体は、山ごとのレーティングを発表している。
「体力レベル」は10段階で数が大きくなるほど登る体力が必要になり、「難易度レベル」は5段階でAがもっとも易しくEがもっとも難易度が高い。
コースタイムも参考にしながら、どの山のどのルートを選択するべきかじっくり吟味するのも登山の楽しみのひとつだ。
【ポイント2】登山者が多いこと
次に山選びのポイントとして多く上がったのが「登山者が多い山」だ。
理由は想像の通りで、ほかに登山者が多くいれば道迷いをするリスクも大幅に減る。
またもしケガなどのトラブルに見舞われたときも、すぐに救助してもらえるからだ。
登山者がごった返しているような山は、せっかくの非日常や自然を味わいに行っているのに興ざめになってしまうが、誰も入らないような無名の山は絶対に避け、ほどよく人気のある山を選ぶのがいいだろう。
【ポイント3】ロープウェイがあること
最後の山選びのポイントは「ロープウェイ」がある山だ。
もちろん麓からロープウェイで山頂に行ってしまっては、登山ではなく観光になってしまうが、「もしやばくなったらロープウェイに乗れる」という安心感はとても心強い。
たとえば予定よりも山頂に着く時間が大幅に遅れてしまったり、ねんざなどケガに見舞われたとき、下りはロープウェイで帰ってくる選択肢がとれる。
また「登りは楽しいが、下山はただの作業」と言い切る登山好きもいる。
ロープウェイがある山の多くは、山頂にたくさんの観光客がいたり、近代的な売店が整備されていて、急に日常に引き戻されたような気分になるデメリットはある。
ただそれよりも安心感がほしいという方は、ロープウェイのある山を選ぶ項目につけてみてはいかがだろうか。
初心者が登山をもっと好きになる楽しみ方
さてここまでで登山中のトラブルや難所の話で、「登山って怖そうだし、やっぱやめておこうかな」と思ってしまった方もいるかもしれない。
確かに登山中に怖い思いをすることはある。
だがそうした怖い目に遭う以上に、山が与えてくれる魅力は大きい。
そこで登山好きの回答者たちは、どのように点で山に魅了されているのか見ていくことにしょう。
登山が趣味の人は月に1回以上山にいく人が約半数
まずは登山好きの回答者たちが、山に出かける頻度から見ていくことにしよう。
もっとも頻度として多かったのは「年に数回」の32.9%だが、「月に1回」以上の頻度で山に行く人も43.8%の約半数ほどいる。
少なくとも体力と天候が許すなら登山に決まった頻度はないので、「山に行きたい!」という衝動を感じたら登山計画を始めて問題ないのだ。
また登山といっても有名な高山ばかり行く必要はなく、500mくらいの近場の低山であってもまた趣が違った楽しみがある
むしろ初心者のうちは、近場の低山になるべく頻度を上げて通い山歩きに慣れる、というのも一手だ。
登山の先輩たちが教える登山の魅力
続いて、登山好きな回答者が挙げる山の楽しみ方を見ていくことにしよう。
山の楽しみは人それぞれで、自分なりの楽しみを見出している人も多く、回答はかなりバラけた。
そのため、ここではいろいろなジャンルの楽しみ方をピックアップする形式で紹介したい。
■インスタントラーメンやコーヒーを山頂でたしなむ
「頂上で飲むコーヒーとカップ麺が最高においしいです。シングルバーナーとクッカーは少し荷物が増えたとしても持っていった方がいいです」(36歳、男性)
「ドリップコーヒーを淹れられる道具を持っていき新鮮な空気の中でじっくりとコーヒーを楽しむ」(68歳、男性)
適度に涼しい山頂で、インスタントラーメンやコーヒーを味わったことがある方なら、激しく共感してしまう楽しみ方だろう。
登山中は気を張っているせいかあまり感じなくとも、山頂に着いて少し安堵した瞬間に底が抜けたような、近年味わったことのないレベルの空腹感を覚えることがある。
そうしたとき、インスタントラーメンとおにぎりという炭水化物オン炭水化物が、最高に刺さるし、ハンガーノック (※)対策にもなる。
※カロリーや糖質不足から血糖値が異常に下がり、動けなくなる状態のこと。
■山頂の眺望と達成感
「山頂での雄大な景色を眺めた瞬間、自分の普段かかかえている悩みがちっぽけに感じ、また明日から頑張ろうと思える」(34歳、女性)
「やはりピークを踏んだときの達成感を味わうことです。山がきつければきついほど燃えます」(41歳、女性)
登山の醍醐味といえば、山頂からの眺望と達成感だ。
写真でしか見たことがなかったような景色が、自分の眼の前に広がる圧倒感は筆舌に尽くしがたいものがある。
ただし登山初心者の方には、山頂に罠が待ち受けているパターンもあるので要注意だ。
それは「山頂=眺望が開けている」というイメージは絶対ではない、ということ。
特に500m級などの低山に多いのが眺望が開けていないパターンで、大変な思いをして山頂に到達しても、下図のように雑木林の中に看板一枚がぶら下がっているだけということもある。
これでも一応の達成感は得られるが、消化不良からモヤモヤしてしまうことは避けられない。
特に低山を選ぶ場合には、山頂からの眺望が開けているかどうか必ずチェックしておこう。
■下山したときのご褒美
「登頂するまではできるだけストイックに徹しておくと、下山した時のリラックス感がなんともいえないクセになる」(42歳、男性)
「下山した後、近場の温泉やお宿、地元のお食事を堪能する」(44歳、女性)
山頂にたどり着いたときには気分が高揚するが、下山して人里に帰ってきたときには、それまでの緊張から解き放たれ、全身を包むような安堵感を味わえる。
そうしたときにおいしいものや温泉・銭湯を自分へのご褒美として用意するのも、山の楽しみのひとつと言える。
最初は下山するとクタクタでそれどころではないかもしれないが、30分でも横になって休憩すると体はまた動くようになるものだ。
下山後も登った行程を振り返ったり、撮影した写真を見返したり、山の楽しみは尽きない。
初心者のソロ登山は賛否両論
ところで最近では「ソロ登山」といって、ひとりで登山に行くことを山の魅力のひとつとして提言している登山者が増えてきた。
確かにソロ登山だと、自分のペースで登れるし、自分が行きたいスポットにも思いのままに足を運べる。
このペースは意外と重要で、初心者が山歩きに慣れた人と歩くとたびたび立ち止まらせてしまい、いたたまれない気持ちになってしまうことがよくある。
一方で、ソロ登山には山でのトラブルに遭ったときの防御力が薄いという難点もある。
実をいうと筆者も友だちが少ないので、結果的に登山デビュー時からソロ登山だった。
このソロ登山の是非を聞いた結果が下図だ。
アリ派となし派でちょうど二分された結果となったしまったが、先ほど挙げた山選びのポイントをしっかり押さえて山を選べば、ソロ登山もアリというのが筆者の体感だ。
初心者の山選びのポイント
1、登山ルートの難易度が低いこと
2、登山者が多いこと
3、ロープウェイがあること
特にルートが易しく登山者が多い人気の山であれば、ソロ登山であっても仲間と登っているのと状況的にはあまり変わらない。
また山に行くと、身のこなしや装備の使い込み具合からして、明らかに山慣れしている人がいる。
そういう人は、初心者の目でも見てもひと目でわかるものだ。
なにか困ったことがあれば、勇気を出して山慣れしていそうな人に声をかければ適切な助言をもらえることだろう。
もちろんソロ登山時は、山の危険に対してより敏感にアンテナを張っておく必要があるのは言うまでもない。
まとめ
本稿では登山を趣味とする73名の男女を対象に、登山初心者がそろえるべき登山アイテムから山選び、そして山の楽しみ方までを調査した。
日本は国土の6割が山という、登山愛好家にはなんとも恵まれた環境にある。
それゆえ初心者でもリュックサックと登山靴さえそろえればすぐに手の届く趣味でもあるし、こうした環境のよさを活かさない手はない。
もし登山を始めてみようという方は、本稿をきっかけに山への第一歩を踏み出してほしい。
アンケート実施方法
アンケート方法
・アンケート方法 インターネット上でアンケートを実施
・回答者数 登山を趣味とする73名
・調査日 2021年4月14~15日
・設問は単一選択式、および複数回答
・調査主体 【300人のホンネ】編集部
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